真如苑は日産村山工場跡地に、どのような寺院を建てようとしているのでしょうか。そのヒントとなるニュースが、2008年3月に流れました。
運慶作と目される大日如来像がニューヨークでオークションにかけられ、海外に流出する可能性があると伝えたのです。第3回は「運慶作大日如来像」です。
運慶作大日如来像が海外流出!?
ご存知のように運慶は鎌倉時代を代表する仏師で、代表作に「東大寺金剛力士像」、「興福寺北円堂無著像」などがあります。
その運慶作(との評価の高い)大日如来像が、ニューヨークでオークションに掛けられるというのです。運慶作の大日如来像はそう多くは存在しません。特にこの作品は、芸術的にも極めて高い評価が与えられているものでした。
大日如来像が運慶の真作となれば、重要文化財あるいは国宝に指定されることは間違いないでしょう。海外に流出すれば二度と日本に戻ることはないと考えるのが当然です。
真如苑が約14億円で落札
オークションでは、約14億円という予想をはるかに超える金額で、落札されました。落札したのは真如苑でした。当時の様子を新聞記事からピックアップしましょう。
「鎌倉時代の仏師・運慶の作とみられる「大日如来像」を、ニューヨークのオークションで、三越に依頼して1437万7千ドル(約14億円、手数料込み)で落札、入手したのは、東京都立川市に総本部を置く宗教法人・真如苑だったことが分かった。同教団が25日、会見した。5年間は、公共の博物館などに預けて調査・公開してもらい、約10年後に立川市と武蔵村山市にまたがって所有する土地に施設を建設、ここで公開してゆく方針という。国外流出が懸念されたが、日本にとどまり、公開されることになった。(以下略)」=朝日新聞2008年3月26日付より=
なにはともあれ、運慶作と目される大日如来像が海外流出を免れたことに、胸をなでおろした美術界・宗教界の関係者も多かったのではないでしょうか。
「仏縁を感じて決意した」
ではなぜ真如苑は大日如来像を14億円もの高額で落札したのでしょう。美術品として鑑賞するためでしょうか。教団の資金力を見せつけるためでしょうか。
おそらく違います。なぜならば真如苑は真言密教を母体とした教団であり、真言密教の御本尊は大日如来像だからです。つまり運慶作大日如来像は、真如苑の極めて中心に近い存在として”求められた”と考えるのが、理にかなっています。
日産村山工場跡地購入が2002年。運慶作大日如来像落札が2008年。オークションの記者会見で真如苑の担当者は、「仏縁を感じて決意した」と語っています。
無事日本に帰ってきた大日如来像は、学術的研究を進めるため、ひとたび国立博物館に預けられました。研究者により、像内に仏像の魂といえる水晶珠(心月輪)や五輪塔が納められ、さらに作風や構造から運慶の作であることが確定。文化庁により重要文化財に指定されました。
ふさわしい場所ふさわしい寺院
真如苑は日産村山工場跡地に、広大な森林公園をつくる構想を発表し、現在造営が行われています。その森林公園に抱かれた寺院は、どのような建造物になるのでしょうか。
寺院には運慶作大日如来像が安置されることは、間違いないでしょう。真如苑は「一般の方にも参観、参拝していただく」と、明言しています。真如苑の信者はもちろん、一般の参拝客が静謐な気持ちで訪れることができる場所であってほしいと願っています。
現在、運慶作大日如来像は真如苑が運営する「半蔵門ミュージアム」(千代田区一番町25)で公開されています。高さは61.6cmと記されていますが、圧倒的な存在感はひと回りもふた回りも大きく見せ、豊かな曲線による表情の陰影がとても印象的でした。
都心のビルに囲まれたミュージアムでの出会いでしたが、運慶作大日如来像には、ふさわしい場所、ふさわしい寺院で、もう一度ゆっくりと出会いたいものです。
参考資料・ウェブサイト
真如ペディア大日如来像
半蔵門ミュージアム
プロジェクト MURAYAMA
武蔵村山市「日産村山工場跡地」
連載
日産村山工場跡地には何ができるのか?第1回「まずは森に戻そう」
日産村山工場跡地には何ができるのか?第2回「お手本は明治神宮の森」